風景が変わっても佇み続ける昭和初期の駅舎
緑豊かな中を駆け抜けた久大本線も、さすがに終点の久留米に近付くにつれ住宅が増え、車窓はいつしか街の風景へと変わっていた。
そして久留米駅の一つ手間、南久留米駅に停車するため、列車は徐々に速度を落としていった。(※1 )
車内から駅周辺をマンションが取り囲んでいる風景が目に飛び込み驚かされた。南久留米駅は半分の大きさに削られたとは言え、開業時の昭和初期からの木造駅舎が残っていると聞いていた。しかし、こんな都会的な風景の中、本当に木造駅舎があるのだろうか…。既に取り壊されてしまったのではないかと思った。
下車して辺りを見回すと、築堤の横に古めかしい木造の建物があるのが見下ろせた。
しかし築堤のホームから駅舎へ降りる階段の屋根は木造だ。かなり古そうだが立派に現役だ。
築堤上のプラットホームから階段を下り、地下のような通路を右に曲がると、コンクリートの壁の向こうに木の柵が見え、その向こうに木造の建物があるのが目に入った。木造駅舎らしいいいムードのある眺めが一歩一歩、近づいてきた。
とりあえず外に出て駅舎を正面から眺めてみた。半分の大きさに改修されたが、木の温かみ感じさせる昔ながらの佇まいを存分に残している。
それにしても、背後のコンクリートマンションとの対比は凄まじい。昔ながらの木造駅舎と最も合わない光景かもしれない…。マンションはきれいで、まだ真新しさがあり、建って長くは経っていなさそうだ。駅舎の方は1928年(昭和3年)築、開業以来のものだ。年の差79歳が織り成す圧巻の風景を唖然と見つめた。
駅舎は少し広めの車寄せを備えている。
駅舎が半分化された時、新建材を使うなど、もっと簡単なリニューアルの仕方があった筈だが、よくここまで昔ながらの木造駅舎の雰囲気を保持したものだと感心してしまう。切断面は木の板で下見張りにされ、屋根はきちんと整えられ、半分化されたと全く感じさせない。同じ久大本線の善導寺駅も半分化されたが、まるで包丁でスパッと切断されたのかと思うほど、半分にされたという雰囲気が出まくっている。日本全国で、半分の大きさに改修された木造駅舎は多いが、その中でも南久留米駅の駅舎は最高傑作だろう。
左側に隣接する砂利敷きの駐車場の部分まで、かつては駅舎が続き、駅事務室や休憩室といった各部屋があったのだろう。
かつての駅舎左側部分のホーム側には、築堤上にあるホームに上がるための業務用の階段やスロープが残っている。今では使い道は無さそうだが…。築堤斜面には木々が植えられ緑豊かで、昔の駅構内らしい雰囲気を留める。
駅前には大きなショッピングセンターが建ち、周囲はマンションや家屋が密集し、まさに都会の住宅街の風景だ。駅舎背後の高層マンションも含め、昔ながらの木造駅舎と周囲の風景が合っていないと言えばそれまでだ。しかし、これはこれで面白いのではと思う。変わりゆく街並みの中で、築80年になる木造駅舎が現役で頑張っている事はすごい事だと思う。南久留米駅の駅舎は、まさに古老の風格を漂わし、主のごとく佇み、この街を見つめ続けているのだ。
入口には木製の建物財産標が残っている。白い板に「南久留米建築1号 本屋 昭和3 11」と一部旧字体で書かれ、建物財産標としてはありふれた内容だが、その右横の「蟻」と書かれた黄色い板は一体何なのだろうか…?シロアリの検査済みという意味だろうか…?その下にも鉄製の建物財産標らしきものがあるが、風化していて判読する事はできなかった。
駅舎の中の待合室部分に入った。駅事務室部分や窓口が撤去され、新たに窓口を設けたのだろう。古い駅舎によく残っている低いカウンター、手小荷物窓口跡が無いなど、古さはさすがに感じないが、外観同様、木造駅舎のイメージに合うような雰囲気にリニューアルされている。
南久留米駅は街中にあるが、駅は閑散としている。街中にある駅とは言え、昼間は約1時間1本の列車しかなく不便だ。ここから直線距離で1.5kmkほど離れたライバルの西鉄大牟田線の西鉄久留米駅や花畑駅の方が、列車本数が多く特急も停車するなど利便性が高い。部分的に電化して、日中でも30分ヘッドで鹿児島本線直通の博多行き快速列車、いや普通列車でもいいので、直通列車を運行すれば利便性は大きく高まり、西鉄にも対抗できるのではと思うと惜しいような…。
ホームから由布院方面の風景を見てみた。駅の南側一帯に柵に囲まれた空地が広がり、鉄製の門がレールの方に向いているのが気になる。かつては工場か国鉄といった何か施設があり、引込み線がこの門の内側に延びていたのだろうか…?
[2007年(平成19年) 6月訪問](福岡県久留米市)
~◆レトロ駅舎カテゴリー: JR・旧国鉄の一つ星駅舎~
(※1: 2009年3月14日、南久留米駅‐久留米駅間に久留米高校前駅が開業したので、現在では久留米駅の隣駅とは言えない。)