レールの果てる駅・伊勢奥津駅
列車は名松線の終点、伊勢奥津駅に到着した。レールはプラットホームを少し行き過ぎた所で尽きていた。このレールは本来なら、山の間を縫うように先に伸び、約20km先の名張まで続くはずだった。しかし、1930年(昭和5年)に参宮急行電鉄(現在の近鉄大阪線・山田線)が先に名張まで開業し先を越されたため、以降の工事は放棄されてしまった。
レールが尽きる車止めの側には、SL時代の給水塔が錆びたまま残り、伸びる事無かった無念さの中に、不思議な郷愁を誘う。その横では枝垂桜が咲き、春の趣を添える。
伊勢奥津駅には、1935年(昭和10年)開業の時以来、ずっと使われ続けている古い木造駅舎が残る。これと言った目立った造形は無いが、それが良い。使い込まれた素朴な駅舎は味わい深く格別だ。
駅舎出入口の上部には、駅名が一文字づつタイルで書かれ、壁に埋められている。しかも右側から読ませている。かなり古いものと推察できる。戦前からものが使われて続けているのだろうか…。同じ名松線の伊勢竹原駅にも同じような駅名標記がある。
無人駅となり久しく、出札口跡の閉じられたカーテンの古び具合が無人化後の年月を物語る。窓枠やカウンターなど、木の造りがよく残り、ほぼ原形のままだ。閉じらた窓口だが、名松線関連の写真や新聞記事などがささやかに展示されている。愛されている終着駅と感じる。
伊勢奥津駅構内横には、舗装された駐車場が広がっていた。今は。昔は側線跡や宿舎など、駅の様々な設備がここまで広がっていたのかもしれない。
折り返しの列車まで時間があり、運転士さんは駅舎内の休憩所で一休み中。私は駅前の散策に出た。
伊勢奥津駅は山に囲まれた静かな集落の中にある。都会の喧騒から逃れ集落を歩いていると、気分が落ち着く。ローカル線の終着駅というイメージにぴったりののんびりとした風情で、芯から解きほぐされる様な癒される心地を感じた。
4月、ちょうど桜の開花時期で、駅前に咲くささやかな桜を古きよき木造駅舎と共に愛でた。
[2001年(平成13年) 4月訪問] (三重県一志郡美杉村)
~◆レトロ駅舎カテゴリー: JR・旧国鉄の失われし駅舎~
追記: 新駅舎
伊勢奥津駅の木造駅舎は取り壊され、新駅舎は2005年(平成17年)2月に完成した。津市八幡出張所、八幡地域住民センターとの合築駅舎で、正面右端が名松線利用者の待合室となっている。また、隣には観光案内所が建てられ、特産品などの販売も行われている。
[2019年(令和元年) 11月訪問]
伊勢奥津駅基本情報
- 鉄道会社・路線名
- JR東海・名松線
- 駅所在地
- 三重県津市美杉町奥津1288-8 ※現在。訪問時は一志郡美杉村。
- 駅営業形態
- 無人駅
- 駅開業日
- 1935年(昭和10年)12月5日
- 旧駅舎竣工年
- 1935年(昭和10年) ※開業以来の駅舎