南宇都宮駅~今も大谷石が息づくレトロな洋風駅舎~(東武鉄道宇都宮線)



大谷石が息づく東武鉄道の駅

 東武鉄道の駅を巡り、夕刻、南宇都宮駅にやって来た。

東武宇都宮線・終着のひとつ手前の南宇都宮駅

 ローカル線らしい車窓風景が続いたが、県都宇都宮の東武側の代表駅・東武宇都宮駅の一つ手前ともなると、都市型鉄道の色彩を帯び、街の風景へとなっていた。

東武・南宇都宮駅のトイレ。宇都宮らしく大谷石の外壁

 南宇都宮駅の駅舎は、宇都宮市大谷町で採掘される事で知られる大谷石を使った洋風駅舎だと知っていた。しかし、まさかトイレまで大谷石が使われていたとは!しかも青い洋瓦で駅舎に似せたレトロなデザインだ。建てられたそれ程経っていないようで、きれいで簡易型オストメイトを備えた最新設備のトイレだ。

宇都宮線・南宇都宮駅ホーム、東武鉄道の駅でよくる大谷石積み

 古い駅ではプラットホーム側面が石積みになっている駅をよく見るが、東武鉄道の駅では大谷石のホームをよく見る。ここ南宇都宮駅も年季が入った大谷石だ。

東武宇都宮線・南宇都宮駅、改札口もレトロな造りに

 改札口もレトロな造り。上部のおたふく窓風のすりガラス昭和レトロな趣きが混じる。

ときわ台駅とよく似た洒落た洋風駅舎

 南宇都宮駅の開業は1932年(昭和7年)で、約200mほど南に宇都宮常設球場があった事から、当初は「野球場前駅」と名付けられた。

 大谷石の外壁が特徴的な洋風駅舎は開業以来のもの。年月を経て古びた大谷石の外観はもちろん、細部の装飾も洒落ている。2020年にリニューアルされたが、駅舎右手前の増築部分まで大谷石というこだわりようは素晴らしい。歴史ある駅舎に違和感なく溶け込んでいる。

東武鉄道・大谷石が特徴的な南宇都宮駅舎は東上線のときわ台駅と類似

 縦長の窓、その軒の持ち送りなど、細部の装飾も目を引く。正面に大きく駅名を掲げた看板は、たいてい駅舎本体の目立つ所か車寄せの屋根辺りに大きく掲げられている場合が多いが、この南宇都宮駅では駅舎左側手前に、大谷石の縦書きの看板が置かれている。名建築を堪能できるよう、あえて控えめにしたのだろうか?

東武鉄道宇都宮線・南宇都宮駅、洋風駅舎の洒落た装飾

 瓦屋根端の側面…「破風」の部分には、波線が描かれ、その窪みの部分には円形の装飾が施されている。球場の最寄駅ゆえ、バットとボールがデザインされた模様という。

 採光窓まわりのギザギザの装飾も面白い。


 不思議な事にこの駅舎、3年後の1935年(昭和10年)に開業した東武東上線のときわ台駅舎ととてもよく似ている…、というかほぼ同じだ。大谷石の外壁、装飾はもちろん、大きさも同じ位だ。同じ鉄道会社で共通デザインの駅舎があるのは珍しはくない。

 宇都宮市中西部には採掘された大谷石を搬出するため宇都宮石材軌道の路線が巡らされていたが、1931年(昭和6年)に東武鉄道に買収され、後に宇都宮線と接続し東京方面へと大谷石が搬出された。なのでプラットホームなど、駅の設備で大谷石が使われやすい要素はあったのかもしれない。

 しかしときわ台駅最寄りの常盤台は、東武鉄道が海外の住宅地を参考に開発した先進的な住宅地。3年前に竣工した洋風のハイカラ駅舎の南宇都宮駅は、そんなモダンな住宅地のイメージに合い、同じデザインが取り入れたのかもしれない…

大谷石の壁が特徴的な南宇都宮駅の洋風駅舎、改修部分

 腰壁とそれより上の壁の間には、ギザギザの線のような装飾が施されている。ある部分を境に、平らで鋭さがある部分、風雨に晒され風化しすっかり丸みを帯びた部分があった。改修部分と昔からの部分は一目瞭然。長年の時を感じさせ、そしてこれからも時を刻んでゆく駅舎なのだ。

大谷石の街・宇都宮市、南宇都宮駅前の大谷石の倉庫

 駅前を歩くと、大谷石の大きな倉庫が残る区画があった。さすが大谷石の街、宇都宮。

 若者が好きそうなお洒落なスポットとして再開発されたようだが、コロナ禍の不況のためか、撤退したテナントもあるようで、やや寂れた印象に映った。

夕刻の駅

東武宇都宮線、洋風の南宇都宮駅舎、出札口・待合室

 夕刻が近づき、温かな照明で照らされた駅舎内部はよりレトロなムード溢れる。

 帰宅してから気が付いたが、南宇都宮駅舎の待合室や出札口があるこの空間は1階の高さで天井があるが、ときわ台駅舎のこの部分は吹き抜けになっている。南宇都宮駅の方は2階があるのだろうか…?

東武宇都宮線・南宇都宮駅、駅舎と反対の南口

 駅舎反対の南側には出入口があり、踏切のある構内通路で結ばれている。だけど南側にはICカードリーダーや券売機は無く、乗車券は北口で買ってくださいという注意書きがあった。

東武鉄道・南宇都宮駅、駅名標と松坂屋の古いホーロー看板

 ホームで列車を待っていると、電柱に紺色の古い縦型駅名標が掲げられていた。その下には、銀座、上野の松坂屋のホーロー看板があった。どちらともレアでレトロな逸品だ。

東武鉄道、レトロな洋風駅舎のある南宇都宮駅と松の木

 駅舎の隣には松の木が一本植えられていた。日本の古い駅には松が植えられている場合が多く、素朴な木造駅舎にはよく似合うもの。しかしこうして眺めると、南宇都宮駅の瀟洒な洋風駅舎にも何て似合う事か。

[2023年(令和5年)3月訪問](栃木県宇都宮市)

レトロ駅舎カテゴリー:
三つ星 私鉄の三つ星レトロ駅舎