3線が交わったゆとりある駅構内
名鉄西尾線の列車に乗り終点の吉良吉田駅へ。蒲郡線との接続駅で、かつては三河線とも繋がっていたが、2004年に三河線の海線と称された碧南‐吉良吉田間は廃止された。
3線のちょうど合流点にある吉良吉田駅の敷地は三角状となっていた。ホームはV字状に配され、西尾線と三河線が蒲郡線に合流する形で、かつては南側から三河線の1・2番線、西尾線と蒲郡線の3・4番線となっていた。三河線海線の末期は小さなレールバスがコトコト走ってたものだ…
2008年に蒲郡線の列車は旧三河線の2番線に移された。レールはまだ繋がっているものの、西尾線と蒲郡線の直通運転は廃止。それだけでなく両線ホームの間には中間改札も設けられ、運行上分断された。
両線の需要が段違いというのもあるのだろう。しかし磁気カードのプリペイド式乗車券・トランパスが吉良吉田駅で導入されたが、蒲郡線では導入されない事が決定していた。なので、トランパス利用者の蒲郡線乗車時の運賃精算の手間が嫌われたのだろう。
三河線廃線後、1・2番線は封鎖されていたが、運賃精算の手間を無くすためか…、思わぬ形で蒲郡線ホームとして復活したものだ。
中間改札設置前、かつて両ホーム間には三角状の敷地が広がり、乗換え通路として機能していた。そこには小さな庭園風の空間もありゆとり感じさせたもの。泳いでいた金魚がただ懐かしく思い出された…
駅統合以来の木造駅舎?
外に出ようと改札口に向かった。改修された木造駅舎とは言え、年季が入った柱に出迎えられた。古びた木の柱はひびが入り、下部は補強されていた。
待合室は狭く、片隅に造り付けの木製ベンチが設置されていた。
吉良吉田駅の駅舎は、半切妻の屋根がレトロさを感じさせる木造駅舎だ。2階建て部分は、増築されたのだろう。
西尾線・西尾‐吉良吉田間の起源となるのは西尾鉄道で、終着駅として1915年(大正4年)8月5日に吉良吉田駅が開業した。しかし当時は今より約300m北に位置し、現在とは別ものだ。
一方、三河線の起源となるのが三河鉄道で、1928年(昭和3年)終着駅として三河吉田駅が開業した。位置は現在の吉良吉田駅より西に約300mあたり。
1935年(昭和10年)8月1日に名鉄の路線となっていた西尾線は、1942年(昭和17年)12月28日に吉良吉田‐三河吉田間が延伸開業した。西尾線の三河吉田駅は現在の吉良吉田駅の位置にあたる。1941年(昭和16年)6月1日には三河鉄道も名鉄三河線となっていたが、両線の三河吉田駅は離れていた。両者が統合されたのは西尾線延伸の約1ヶ月後の1943年(昭和18年)2月1日、西尾線の方の駅に統合された。
たった1ヶ月なら両駅同時に移転すればいいのにと思うが、何でタイムラグが発生したのか?準備が整った方から、いち早く開業させていく方針だったのか…?それとと三河線側の駅施設の工事が遅れたのか…?
そして現在の吉良吉田駅へと改称されたのは1960年(昭和35年)11月1日の事だ。
蒲郡線は元々、三河鉄道の延伸区間で、1929年(昭和4年)8月11日以降、東進し、1936年(昭和11年)11月10日、蒲郡まで全通した。蒲郡線と名付けられたのは1948年(昭和23年)5月16日だ。
…と、吉良吉田駅の歴史は複雑だが、現在の木造駅舎はそういう推移を考えると、西尾線の三河吉田駅延伸時の1942年(昭和17年)か、それ以降だろう。
色々と改修されているが、屋根の縁の木の造りとか、通風孔に昔ながらの造りを残す。
駅舎の左側は駐車場やトイレとなっている。トイレは比較的近年に新築されたのか、きれいに見える。
だけど、この辺りには、かつて名鉄の構内売店があり、昭和を思い起こさせるレトロないでたちが印象深かったもの。構内を名乗るが、「名鉄指定」と掲げていた事から、名鉄の認可を受け駅売店として営業する個人商店のようなものだったのだろう。
今も残る三河線の廃線跡
ちょっと周辺をぶらついてみよう…
西尾線ホームの北端には踏切があり、ホームと停車する列車を正面から見る事ができる。こうして見ると迫力あるもの。
三河線の両端部は2004年に廃止されたが、吉良吉田駅近くは、まだ色濃く痕跡を留めている。住宅街だが、単線の廃線跡は幅が狭く何か建てるに十分な土地でもなく、道路を拡張するほどの交通量でもなく、転用し辛いのだろう。
だが三河線のホーム跡は今でも使われ、三河線在りし日を偲ばせた。かつての1番線は形あるものの、現在は番号は振られていなく、留置線として使われるだけだ。
少し離れて吉良吉田駅舎とかつての三河線ホームに停車する蒲郡線の列車を眺めた。
蒲郡線は20年以上前から存廃問題が取り沙汰されているが、谷汲線や岐阜市内線など多くの名鉄の路線が廃止されてきた中で、辛うじて生き残っている。しかしトランパスが導入されず、広く普及したICカードも導入されておらず、見捨てられているとさえ感じる。
ずっとこの変わった配線の駅を愛でていたいものよ。
[2021年(令和3年)10月訪問](愛知県西尾市)
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