岳南富士岡駅 (岳南鉄道(現・岳南電車))~古い木造駅舎とパートの駅員さん~




※訪問時の社名は「岳南鉄道」だったが、2013年(平成25年)4月に鉄道事業が分社化され「岳南電車」となった。

広い駅構内に建つ木造駅舎

岳南鉄道・岳南富士岡駅、元・東急の5000系電車が留置

 岳南富士岡駅で下車すると、まず留置されている廃車体が目に付いた。東急から転籍してきた5000系電車で、十年ほど前、私が初めて岳南鉄道に乗りに来た時に乗車したのもこの形式だった。今では元京王の3000系が改造された車両が取って変わっている。

 この駅には岳南鉄道の検修施設があり車庫や留置線といった設備が置かれ、駅構内は広めだ。

岳南電車・岳南富士岡駅、ミニ庭園の池

 斜めに構内を横切る通路を通って駅舎に向かう時に、こんな池のある小さな庭があるのを発見。むさ苦しい程の水草でびっしり埋め尽くされている。横に自動ポンプまであるが、故障し稼動していないようだ。

岳南鉄道(岳南電車)・岳南富士岡駅、駅舎の窓口跡

 駅舎内の窓口は3種の高さの窓口があるのが特徴的だ。現在、実際に使われているのいちばん左側の出札口の一つのみ。

 駅にはパートの中年女性が駅員として勤務している。と言っても、通勤通学時間帯限定らしいが。

 ちょうど帰宅の時間に差し掛かり、下車する人々に
「お疲れ様」
「おかえり」
と親しげに声をかけ、下車客もそれに答え、駅から我が家へと帰っていく。その姿は駅員と言うより、近所のおばちゃんが顔見知りの学生に声を掛けているという雰囲気だった。それ程、乗降客が多くない上、日常的に利用する人がほぼ固定されているという事もあるのだろう。雑踏と化した都会の駅では有り得ない光景だろう。無人化されるローカル駅が多い中、駅員さんの居る駅の人情に触れ、私まで心温まる心地を感じだ。

岳南鉄道(岳南電車)・岳南富士岡駅、待合室と池庭

 待合室には、まるで「どうぞお庭をご鑑賞下さい」と言わんばかりに、先程の池庭の前にベンチが置かれている。残念ながら荒天だが、天気が良ければ、このベンチに座り背後を過ぎ行く列車も眺めながら憩うのもいいかもしれない(笑)

岳南鉄道(岳南電車)・岳南富士岡駅、古めかしい木造駅舎

 岳南富士岡駅の駅舎を正面から眺めてみた。木造駅舎だが、多くの部分がトタン板で覆われるなどリニューアルされている。シンプルで素っ気無い造りだが、そんな所もまた面白く、古さを伺わす点にも魅かれる。岳南富士岡駅は1951年(昭和26年)、本吉原からこの駅まで、延伸開業した時に開業した駅だ。その時以来の駅舎だろうか…?

岳南鉄道(岳南電車)・岳南富士岡駅、木造駅舎に付属する売店跡

 駅舎正面左手前に売店跡と思われる造りが残されている。しかし、自動販売機が居座り、現在では使われていない。検修施設が置かれた岳南鉄道の重要な駅なので、昔はもっと多くの従業員の人が働いていて、福利厚生も兼ねて売店が置かれていたのかもしれない。

岳南鉄道・岳南富士岡駅構内、植込みと元東急5000系電車

 先ほどの池庭を裏側から見てみた。売店跡の裏側に当たる位置だ。木々がいくつも植えられた緑豊かで、駅に和みを与える空間だ。いちばん背の高い木はみかんの木で、小さなみかんがたくさんなっていた。

岳南電車・岳南富士岡駅、木造駅舎側面の描かれたかぐや姫

 駅舎の側面には壁いっぱいにかぐや姫が描かれている。竹取物語で、帝はかぐや姫から贈られた不死の薬を、駿河の日本で一番高い山で焼くように命じた。その山こそ富士山で、「不死」が富士山という命名の由来になったという説もある。この駅からも富士山が見られるのだろうが、悪天候のため、残念ながら見る事が出来なかった。

岳南鉄道(岳南電車)・岳南富士岡駅、駅前の風景

 岳南鉄道沿線は工場が多いが、駅前から周りを見渡すと多くの住宅が立ち並んでいた。

岳南電車・岳南富士岡駅、構内通路横の池庭

 この日は台風が接近していて、強い雨が駅を打ち続け、暴風が池庭の木々を激しく揺らしていた。

 長い時間、駅に居て、しかもこんな池庭にしつこくレンズを向ける私が珍しい事もあってか、件の女性駅員に話し掛けられた。何でこんな物が作られたのか聞いてみたが、随分と前からあるらしく、やはり理由は知らないとの事だった。もっと坪庭の手入れをしたいが、自動ポンプが壊れてしまい手間が掛かり、そして、パートの限られた時間の中で、あれこれするのは難しいと残念そうだった。あと駅前の溝に大き目の魚が数匹迷い込んできて、この池に移したが、池が小さく酸欠で直ぐに死んでしまったという、興味深いエピソードも伺う事ができた。

[2007年(平成19年) 9月訪問](静岡県富士市)

~◆レトロ駅舎カテゴリー: 二つ星 私鉄の一つ星駅舎