肥前長野駅(JR九州・筑肥線)~廃墟同然の木造駅舎!?~



荒廃する木造駅舎

JR九州・筑肥線、廃品に占拠された肥前長野駅の待合室

 筑肥線の肥前長野駅で列車から降り、待合室の扉を開けた瞬間驚いた。高齢者用の電動カートは駅利用者が停めているのかもしれないが、ソファーが積まれ、壊れたタバコの自動販売機が放置されるなど、まるで廃品倉庫と化していたのだ。

 壁際に2つの長いソファーが置かれているが、白い布張りの方は、カビや汚れが酷く、革張りの方も汚く、ここに座って列車を待とうという気は全くおこらない。駅利用者のためというより、遺棄同然でそこに置かれいるように思える。いくら利用が少ない無人駅とは言え、こういう状態を放置するとは管理が行き届いているとは思えない。JR九州は何をやってるんだかと思ってしまう。

佐賀県伊万里市、筑肥線・肥前長野駅、古い木造駅舎が残る
筑肥線・肥前長野駅、古い木の質感豊かな木造駅舎

 肥前長野駅にはかなり古い木造駅舎が残っている。下見板貼りで素朴な外観だが、かなり古び、板が剥がれている部分もかなり目立つ。窓の造形が特徴的で、窓に柵が取り付けられているのは珍しいかもしれない。その横・右側の窓には、2重窓のように縦長の窓が重ねて設置されているのも珍しい。この駅の開業は1935年(昭和10年)3月1日だが、素朴で古びた質感を見るにつけ、それ以来の駅舎だろうかと思わせる雰囲気を感じさせる…。

筑肥線・肥前長野駅前の飼い犬

 駅前には数軒の民家や商店などが建ち、その先には国道と川が横切っていた。

 駅前のある家では、犬が鎖に繋がれていた。たいてい、そんな所を通ると、吠えられたり、興味を持たれたりするのだが、そんな気配は全く無い。ずいぶんとおとなしい子だ。その犬に少し近付いてみても、全く動じず、何か思案しているかのように、視線も動かさずジッとしている。でも「雨が降ってるなあ…」とか、きっと他愛の無い事でも、頭に思い浮かべているのだろう。駅があってたまに利用者が居る…、この犬にとっては、一々騒ぎ立てる程の事でもなく、もうあたりまえの光景でしかないのだろう。

筑肥線、傷みが激しい肥前長野駅の木造駅舎

 ホーム側にまわると、駅舎がひどく痛んでいるのを痛切に実感した。風化して柱は細々しく、木の板は痛み剥がれ、ガラス窓は割れたままだ。ここまで修繕すべき箇所が多いのに放置されているのは疑問だが、もう取り壊しの運命にあるので、あえて手が加えられないのだろうか…?廃品が放置されているのは待合室と同じで、乳母車、ビアケース、ソファーなどもあり、ここはゴミ捨て場かと思ってしまう。

 「JR全線全駅(2001年版)」という本よれば、この駅について「駅舎は町の集会所を併設している」と書かれているが、とてもそんな様子は無く、ただ単に打ち棄てられ朽ちていく廃墟と化した駅舎にしか見えなかった。これはこれで印象的で心に迫り来るものはあるのだが、やはりきちんと整備され(かと言って趣をぶち壊す過度な改修が施されるのではなく)、大切に使われてこそ、古き良き木造駅舎の味が出てくるものなのだなと強く感じさせられた。

筑肥線・肥前長野駅に残る古井戸跡の津田式ポンプ

 駅横に古井戸が残っていた。ただ、コンクリートの板で塞がれ、もう使われていない事は解る。

 井戸には手押しのポンプも残り、錆付いた本体に「津田式」とメーカー名らしき文字が大きく刻印され、他にも、シリーズ名か「大臣」「ケーボー式」と、小さく刻印された文字も見え、レトロな姿に大いにそそられる。隣の駅の用地だったと思われる空き地にも、この廃井戸と同じ型のポンプがポツンと残されていた。

 このポンプについて、帰宅後、ウェブ上で調べてみたのだが、「津田式ポンプ」と呼ばれるもので、広島のメーカーが製造していたという事以外、詳しい事は解らなかった。

筑肥線・肥前長野駅、謎の柵がある側線ホーム跡。

 島式のプラットホームでかつては2線あったようだが、今では駅舎側の方しか利用されていない。他にも、かつての側線跡に貨物など業務用と思しきプラットホーム跡のが残っている。今では、その上には小さな檻が作られ、その側には家畜の小屋がある。牛か何かは知らないが、そこで飼われている家畜が、放牧ならぬ“放駅”で、ホーム跡の檻に出されているのだろう。そこで列車を眺める事は、家畜たちにとって意外な気分転換になるのかもしれない。

[2005年(平成17年) 2月訪問](佐賀県伊万里市)

◆レトロ駅舎カテゴリー: 三つ星~JR・旧国鉄の三つ星クラスの名駅舎~

追記: その後の肥前長野駅

JR筑肥線・肥前長野駅、廃品が少し撤去された待合室(2010年)
( 2010年訪問時の肥前長野駅1 )

 2010年5月に再訪した時、待合室内にあった廃品の半分以上が撤去されていて、そのため、かつての窓口跡が姿を現していた。左側に手小荷物窓口、右側に出札口があり、どちらも木のカウンター跡がしっかり残るなど、とても良く原形を留めていた。だけど駅舎は相変わらず廃虚同然のボロボロのままで、内部はゴミや廃品の山だった。

筑肥線・肥前長野駅、ボロボロの木造駅舎と内部のゴミの山
( 相変わらずボロボロの木造駅舎(2010年) )

 しかし2013年以降に訪問した人々のブログ記事など訪問記によると、待合室内だけでなく、駅事務室など駅内部の廃品がきれいに撤去されたとの事。遂に取壊しかと思ったが、Wikipediaの肥前長野駅の項には「駅舎は、地元がJR九州から買取り保護保存活動がされている。」という一文があった。どうやら駅舎保存に向けて動き出している様子だ。


 そして2015年、ネット上で肥前長野駅が改修されたと噂を聞き、確認しに現地に訪れた。思えば初めて訪れ深く心に刻まれてから10年という節目の年。どうなっていたのか…。その時の訪問記は以下の記事へどうぞ。
肥前長野駅(JR九州・筑肥線)~廃虚のようなオンボロ駅舎の10年後~

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