日本の春を味わうひと時…
元近鉄の特急型車両16000系の各駅停車に乗り青部駅で下車した。プラットホームに沿って並ぶ桜の木々と、その向こうに広がる茶畑に出迎えられた。
現在は一面一線の棒線駅だが、レールが剥がされた小さなホーム跡が残っている。短さから見ると、側線にある業務用ホームと言ったところだろう。
そしてホームと線路から道路一本分の隔て、木造駅舎が建っている。不自然な空間の取り方だが、先程のホーム跡を考えると、元々2線の構造は有していたが、不要となりレールが剥されたため、ホームと駅舎の間に空間が出来てしまったのだろう。
駅構内の片隅には荒れ果てた倉庫も残ってた。昔はもう少しにぎわっていたのだろう。
青部駅の駅舎を正面から見てみた。妻面に出入り口がある押縁下見の素朴な木造駅舎で、大掛かりな改修の跡は見受けられず、原型をよく保っていて味わい深い。駅の開業は1931年(昭和6年)の4月12日だが、その頃からのものだろうか…?
線路一線分剥がされポツンと佇む姿は、すぐ側にホームがあるとは言え、廃線跡に残った駅舎のような趣だ。
待合室内部も、ほどんど改修されていないありのままの造形を保っている。段差の違う窓口があり、昔は貨物も取り扱っていたのだろう。だけど、色々な物が雑然と放置され、まるで倉庫のよう。そのせいか乗降客にあまり利用されているようには見えない。きちんと整備すれば、快適に待合室を利用できるのはもちろん、田野口駅同様、映画などの撮影に使えるような趣き深い空間になると思うのだが…。むしろ、余計な改修が施されてなく、年月を経た味わいが染込んだ青部駅の方が、ロケで使うにはいいように思う。
かつての窓口の内側、駅事務室も昔ながらの造りだ。何故かコーラの冷蔵庫が放置されている。壁にはモノクロのSLのカレンダーが掛けられているが、よく見ると1977年のもの!何と、今から30年前…。奥の部屋は畳が敷かれ障子も見える。駅員用の宿直施設だったのだろう。
こうして待合室からホームを見ると。大した距離ではないが、いかに離れているかを感じる。駅舎の待合室で待ち、列車が来て慌ててホームに移動するなら、最初からホームで待っていた方が面倒でなさそうで、駅舎内の待合室が荒れてしまうのも納得させられる…。
駅の周囲は小高い山に囲まれ、こじんまりとした集落に茶畑が広がる。のどかな眺めで、お茶で有名な静岡県の田舎らしさに溢れる風景だ。
駅に南海電鉄で活躍したズームカー、21001系が入線した。桜の花咲く木造駅舎に、未だ活躍する古老のような車両…。タイムスリップしたような古き良き日本の原風景に癒される心地だ。
[2007年(平成19年) 4月訪問](静岡県榛原郡川根本町)
~◆レトロ駅舎カテゴリー: 私鉄の三つ星駅舎~