スイス最大のターミナル駅・チューリッヒ中央駅
前夜、ドイツのハンブルグから夜行列車シティナイトラインに乗り、朝の9時にスイスのチューリヒ中央駅(Zurich Hauptbahnhof)に到着した。スイス連邦鉄道(SBB CFF FFS。通称:スイス国鉄)最大の駅で、ヨーロッパのターミナル駅らしく、地上プラットホームのほとんどは屋根で覆われている。長いドームのような上屋がいくつも連なる空間は壮観ですらある。
配線は行き止まりのプラットホームがずらりと並ぶ櫛形ホームだ。
プラットホーム終端から続くコンコースも屋根で覆われて、その下には多くの旅行者が行き交う。そして両端を見ると、遮るものが無く、トラムや自動車が行き交う外の様子が見える。改札口などなく、直接駅の外に出ることができるのだ。
この大きな屋根に覆われたプラットホームには、ICE、ユーロシティ、ユーロナイトと言ったヨーロッパ各国からの国際列車や、インターシティ(IC)、インターレギオ(IR)、レギオエクスプレス(RE)と言った国内の速達列車が発着する。Sバーン(S-bahn)、レギオ(R)と言った近郊列車は地下のホームから発車しているという。ここやその周辺の地下にもプラットホームが埋もれているのだと思うと、規模の大きさを実感する。
折角だから駅舎の外に出たいと思った。出入口はまるで宮殿かと思わせるドーム状の造りになっている。装飾もヨーロッパらしい歴史と伝統感じる洒落たものだ。
内部だけでなく、外観もネオルネッサンス調で歴史感じさせる。堂々と佇む姿は、これぞヨーロッパの歴史あるターミナル駅と深く感激させられた。この駅は1847年の開業だが、需要増大を見越し、1871年に現在の駅舎に建て替えられたという。
駅舎は大きくクラシカルな造りは堂々たる雰囲気を放つ。こちらは南側で、トラム駅や道を渡ると街へと続く通りもあり、駅の正面と言えそうな雰囲気だ。
駅舎玄関部分の頂上には、古代の衣装を纏った像が置かれている。そしてスイスの国旗がはためいているのがどこか誇らしげだ。
南面にある駅舎から左に進み曲がり、東面側に着てみた。南側に比べたら地味ながらも重厚さが漂う。
元々、プラットホームは駅舎のある南面背後のホールの中にあったという。ここはその空間の東端にあたり、かつてはこの壁のすぐ後ろに列車が並んでいたのだろう。
中央には時計が掲げられ、その周りの装飾も正面ではないからと言って手が抜かれている訳ではなく、やはり細部が凝っていて素晴らしい。
そして軒…と言うか回廊の下に入ったもっと驚かされた。洒落た装飾が施された高い天井に重厚な柱が並ぶ回廊は、まさに宮殿の趣だ。ここはやや人通りが少ないため、ひっそりとした雰囲気が漂っていた。
回廊の横には小さな泉が作られていた。子供の銅像の水がめからは、絶えず水を注がれる。駅のちょっとした潤いの空間だ。
ホールの北面は建物が増築され近代的な造りになっている。
奥の屋根の下はプラットホームで、18番ホームがある。道路から僅か数メートルの所にトラムでない普通サイズの列車が止まっている様は、不思議な雰囲気だ。
そして東側からホールに入ってみた。かつてプラットホームが並んでいただけあって、かなり広々とした空間で、サッカーができるのではと思える。半円形の窓が並ぶ様も印象的だ。両側にはカフェやお土産屋など様々な店舗が並んでいる。
小雨が降るこの日、窓がこれだあっても光は十分にもたらされず薄暗い。このただっ広く薄暗い空間はそれなりに人の通行があってもホールの広さに負け、閑散とささえ感じてしまう。
だが、この広いスペースを利用し、イベントが開催される事もあるという。毎週水曜日はマルクト(市場)が開かれ、野菜やチーズなど食料を売る屋台が軒を連ねるという。訪問した日は火曜日で、1日違いで残念!クリスマスの時期はクリスマスマーケットが開かれ華やかな雰囲気に染まるという。この空間さえあれば、大抵の事は出来てしまうだろう。
駅舎内の薬屋もこんなに洒落ている。異国フィルターを通して見ているからだろうか…
あるショーウィンドーには色とりどりのケーキが並び、強烈に私の目を引きつけたた。とても美味しそうで、もし現地人ならば、一つ買っていきたい。いや、いっその事、ザグレブへの列車の出発前に1個買って、長い旅の途上で平らげてしまおうか…
ザグレブ行き夜行列車、旅立ちの前に…
首都のベルンまで行き、夜の7時ごろチューリヒ中央駅に再び戻ってきた。朝と違いホール内のお店は全部空いていて、通行人も多くなっていて活気ある雰囲気だ。この広々とした空間のあちこちにカフェのテーブルがあり、ほぼ満席と繁盛していた。
立ち並ぶ店の中にひっそりと、一等車利用者向けの国鉄ラウンジの入口があった。扉の中に入ると、カフェのテーブルが並び、突き当たりに薬屋があるだけで、一瞬どこかわからく、「あれ?」と思った。しかしガラス張りの薬局の横を見てみると、これまたガラス張りのエレベーターの扉があった。どうやらラウンジは2階にあり、このエレベータで上がっていくようだ。
ラウンジはスイス国旗の赤色を基調とした壁が印象的に映った。いくつかの小部屋が繋がっていて、それぞれにゆったりとしたソファーが配置されている。コーヒーを取って、列車に乗るまでのひと時、ゆったりと寛いだ。2夜連続の夜行列車なので、デジタルカメラの充電も欠かせない…。
もう時間かと思いラウンジを後にし、8番ホームに向かった。ちょうど今宵の宿となるクロアチア・ザグレブ経由のセルビア・ベオグラード行きの国際夜行列車・ユーロナイト(EN)が入線してくる所だった。
もうすぐ夜の8時半にだが、チューリッヒはようやく日が沈もうとしている頃だ。ホームの向こうのには、夕陽に染め上げらた空が見える。その美しさに、今日の午後、ベルンで散々雨に降られたのを思い出していた。列車の出発が迫る中、時間が許す限りホームで空を眺めた。今回はちょっとしかスイスに居られなかったけど、またいつの日にか必ず来たいものだと、短い滞在を惜しみつつ…。
そして8時40分、私を乗せた列車はより暗さを深めた夕空の元へ駆け出した。
[2014年8月訪問]