曽根田駅(福島交通・飯坂線)~運良く生き長らえている木造駅舎~



福島駅から600m、個性的な木造駅舎

福島交通・飯坂線・曽根田駅ホーム、JR東北本線の真横に位置

 福島駅から1駅、福島交通(飯坂電車)の曽根田駅で下車した。普通の3分の、あるいは4分の1程度しかない狭い島式ホームだ。駅構内の真横をJR東北本線の列車が行き来する。

 福島駅までの距離は0.6kmで、福島駅に着いた時は、飯坂温泉行きの列車が出てしまった直後で、次の列車を待つなら歩いて来ようかと思わせる近さだ。

福島交通・飯坂線・曽根田駅、廃番線

 かなり狭い島式ホームと言っても、今は片側しか使われていないようだ。一応、レールは残るが、福島方のホーム端には車止めが置かれレールは途切れていた。ホームの一部を切り欠き、駅舎との間にはレールを跨ぎ構内通路が設置されている。

福島交通・飯坂線・曽根田駅、昭和17年築の木造駅舎

 曽根田駅に着いたのが夕方だったので、暗くならない内にと思って外に出た。大きなガラス窓が印象的な大柄な木造駅舎だ。駅の開業は1924年(大正13年)。1942年(昭和17年)に、前身の福島電気鉄道が、福島駅に直接、乗り入れる際に、福島‐森合駅(現・美術館図書館前)で現在の経路に移転となり、曽根田駅も現在地に移転となった。駅舎はその時以来のものだ。

 2010年に改修され、新築時を思わすような奇麗な外観だ。待合室、出札口を備えた建物中心部に、付け足したような棟が印象的で、右側の軒下も部屋になっている。

 古いながら今も現役だが、かつて、この駅舎を取壊し、跡地にはマンションにし、その1階を駅として使用するという計画が固まった。しかし、福島交通の会社更生法申請や東日本大震災のため計画は凍結された。消える運命にあった駅舎が、こうしてリニューアルされ今も存えているのは、数奇な運命を感じずにはいられないものだ。

福島交通・飯坂線・曽根田駅、駅舎には花屋が入居

 駅舎には花屋が入居していて、出入口は花で賑やかだ。駅舎右側手前のテント下にも花がたくさん並べられている。古駅舎というより老舗の花屋かと錯覚しそうになる。

福島交通・飯坂線・曽根田駅、駅舎正面の窓

 駅舎右側に付け足されたような部分がある。古い木枠のままの大きなガラス窓が一際印象的だ。そして、胸~頭位の高さは三角柱状の板張りがなされ、洗濯板のようなでこぼこが、木造モルタル駅舎のアクセントになっている。

 中をチラリと見てみると、花屋の倉庫として使われていた。後で駅員さんに聞いてみると、八百屋として使われていた事もあったという。

福島交通・飯坂線・曽根田駅の木造駅舎、裏側

 駅舎を裏側から見ると、また付け足したような棟があり、駅舎全体の複雑でで棟をいくつも造り足したような形状が面白い。写真左奥は庇下に増築された花屋で、手前の出たような棟はトイレだ。その隣のサッシ窓が連なる部分はホームへの通路を屋根や壁で覆ったものだ。トイレの壁にも洗濯板状の板張りが施されていて古さを窺わす。しかし軒下の花屋の棟は新建材でつぶさに見ても古さは感じられなかったので、ここだけは後年に増築されたものなのだろう。

福島交通・飯坂線・曽根田駅の木造駅舎、天井が高い待合室

 駅舎外観の撮影を一通り終え待合室に入ると、天井の高い白色の空間に、はっと息を呑むほど驚かされた。白い空間の上の方には三面の採光窓があり薄っすらと外光が差し込み不思議なムードを奏でる。特に右手の台形状の採光窓が印象的だ。窓口とかは待合室の古び具合はローカル私鉄らしい前時代的なムードだが、待合室の空間の設計としては、時代の先端を採り入れたようなモダンな雰囲気が伝わってくる。

 不思議な感じがして外に出て駅舎を見渡すと、ホーム側など窓を塞いだ形跡があちこちに見られ、光をたくさん取り入れようと、窓をいくつも作った設計に改めて驚かされた。

福島交通・飯坂線・曽根田駅、切符売場

 ほとんどの時間帯で無人らしいが、朝夕は駅員が常駐する。この駅には券売機が置かれていなく窓口販売のみとなってる。隣には手小荷物用窓口が残っているのが目を引く。

福島交通・飯坂線・曽根田駅の木造駅舎、ホーム側

 名残惜しいが、もうそろそろと思いホームで列車を待った。駅舎にはやはり塞がれた窓が多く、ここからもたくさんの光が駅舎の中に降り注いだのだなと昔を空想し感慨に耽った。

 名残惜しいが、もうそろそろと思いホームで列車を待った。駅舎にはやはり塞がれた窓が多く、ここからもたくさんの光が駅舎の中に降り注いだのだなと、昔を想い感慨に耽った。

 先程から色々と写真を撮っているのを見て、初老位の駅員さんに話しかけられた。そして「色々と撮っていって下さい」と言われたのが嬉しかった。駅を撮る事は場合によっては邪魔かもしれないのに、歓迎を意を表わしてくたのは素直に嬉しかった。そして、長年勤めているであろう飯坂線を誇りにしていることが伝わってきたのが何よりも素晴らしい。

 その駅員さんは、昭和50年までは、曽根田駅は車庫があって、この駅で乗務員の交代も行われ、駅の中で休憩もしていたと懐かしそうに話してくれた。

[2013年(平成25年) 10月訪問] (福島県福島市)

レトロ駅舎カテゴリー:
三つ星 私鉄の三つ星レトロ駅舎

追記: その後の曽根田駅(レトロ調にリニューアルetc…)

 入居していた花屋だが、私の訪問後の写真をネット上で見ると、営業している形跡が見られない。どうやら撤退したようだ。


 2022年4月29日、駅舎は開業時の昭和レトロ調に改修されるなどリニューアルオープンした。

 プラットホームの使われていなかった番線には、引退した7000系電車(元東急7000系)2両が静態保存され、車内は「お休み処ナナセン」として開放されている。1両は現役時のままのだが、もう1両は個別のデスクがあるスペースに改修された。入場には乗車券、もしくは入場券が必要。

 駅舎正面左手前の倉庫だった一室には、カフェ「伏見珈琲店」が福島駅前から移転開業した。公式ウェブサイト・SNSは以下へどうぞ。
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