みまさかスローライフ列車で巡る因美線の木造駅舎

レトロ駅舎スタンプラリーの旅(2)‐人気の「みまさかスローライフ列車」などに乗り、因美線の閑散区間3駅、
美作滝尾駅、美作河井駅、那岐駅の趣深い木造駅舎を味わいながらんびりと制す。

(←前ページ:レトロ駅舎スタンプラリーの旅(1)〜岡山の古く趣深い駅舎を巡る旅(序章)〜)

みまさかスローライフ列車でレトロ駅巡りへ。

みまさかスローライフ列車

みまさかスローライフ列車。国鉄型気動車・キハ40系気動車3両で運転される。(美作加茂駅で撮影)
 11時52分、津山に到着すると、隣のホームにオレンジ色の3両編成の列車が停車していた。みまさかスローライフ列車はもう入線していたのだった。係員のJR西日本社員の方がいたので、何気に出発時間を聞いてみると、12時01分との事。何と!どこをどう見間違えたか、私の行程表には12時20分とメモされていた。津山駅での待ち時間に昼食を調達しようと思っていたが、気に留めず駅の外に出ると危うく乗り遅れるところだった。危ない所だったと安堵し、缶コーヒーを買うと急いで列車に飛び乗った。3両編成と言えどシートはほぼ埋まっていた。空いてる席を探しに車内を歩いたが、ほぼ満席だ。まさかここまで人気があるとは・・・。後日の報道で、前日土曜日は、好天も手伝ってか350人の乗客で大賑わいだったという。人気の程が伺える。
 外が眺めづらい席に座るよりもと、2両目運転席後ろの座席が撤去された運賃箱そばの窓際に寄りかかった。 だが、外気との気温差で窓は白く曇るばかりだ。時折、指で窓の曇りを取りながら、秋色に色づき始めたのどかな田舎風景を眺めた。

美作滝尾駅。雑踏の中でも心揺り動かす深き趣き。

 12時20分、みまさかスローライフ列車は美作滝尾駅に到着した。出発は12時46分と、駅を存分に味わうには短い気もするが、初訪問ではないので今回はこれでよしとしよう。停車位置がちょうど改札口跡だったので、とりあえず待合室に入るとスタンプ台があったので、早速押した。これで2駅目だ。
 そして窓口跡の方を見てみると…、どうやら駅務室内部に入れるようだ。普通、一般人は駅務室には入れなく、当然、前回は古めかしい内部をガラス窓越しに指を加えるように眺めるだけだった。しかし今回、イベント列車運転時なので、普段は入れない駅務室内部が開放されているかもと期待していて、実はこの旅でスローライフ列車を選んだ秘かな理由でもあった。期待通りだ!駅前の歓迎イベントは後にし、まず駅務室内部に急いだ。
 まず足を一歩踏み入れた。そしてその瞬間、まるで時間が止まっているかのような衝撃を受けた。使いこまれ色に深みが増し木目が刻まれたカウンター…、木で組まれた棚や引き出し…、かつて駅員さんが座り乗降客と切符や荷物のやりとりをした窓口跡裏側は、表側同様にまさにそのままだ。畳敷きの休憩室、流し台あたりまで昔の雰囲気を留める。白い漆喰は年月が染め上げたかのように薄汚れている。よくこんな姿のままで残っていたものだ。これだけでも今回の旅行の価値はあった。高まりで震える手を心で鎮めつつ、人の流れが一瞬途切れる瞬間を待ち夢中でシャッターを切った。
美作滝尾駅、駅務室跡

外観だけでなく駅務室内も昔のままの造りを残し深い味わいを感じさせる美作滝尾駅。
美作滝尾駅、駅務室跡2

美作滝尾駅駅務室跡。水場、休憩室跡あたり。
美作滝尾駅、駅事務室跡。改札鋏、駅名はんこ。
改札鋏、駅名の入ったはんこなど、昔の駅の備品も置かれる。
美作滝尾駅、駅員側から見た窓口跡

駅員側から見た窓口跡。駅員さんに長い間使い込まれた「味」が染込んでいるかのよう。



 出発直前まで、ずっとこの世界に浸っていたいが、駅前ではみまさかスローライフ列車歓迎イベントが行われていて、折角なので外に出てみる事にした。駅務室から出ると、瞬時に大賑わいのイベント列車に乗り合わせていたという先程までの瞬間に戻った。待合室の雑踏を抜けると、駅前にはテントがいくつも立ち、獅子舞も行われていた。狭い駅前は乗客達で混雑している。まるでお祭りだ。前にも撮影した事があるが、駅舎正面を撮影しようとすると…、人だらけで、雨空の下、傘の花が満開でそれでころではなかった。でも普段は静かで寂れた感じさえある駅が、楽しそうな人々でこんなに賑わっているのも、こんな日ならではでこちらも楽しくなってくる。
 美作滝尾駅での歓迎イベントの一つでコーヒーや甘酒などの無料サービスがあった。私もテントの下で甘酒をいただいた。しょうが入った甘酒は、冷たい雨で冷やされた体を温めてくれた。雰囲気を撮影したくて写真を撮っていいかと係のおばちゃんに聞いてみると、私を撮ってよ!と知り合いを寄せ集め3人になった。おばちゃんの1人が
「私達が入らないほうがいいんじゃない?」と。
「いえ、一番の記念ですよ」。
と答え撮らせてもらった。地元の人々も乗客とのコミュニケーションを楽しみながらやっているようで、乗客の私の方も、古く趣深い駅舎のある美作滝尾駅でまた一つ思い出重ねられた。
 出発5分前を知らせる案内があり、昼食にメロンパンと惣菜パンを買い、急いで車内に戻った。いよいよ出発となり、地元の人々がホームに一列になり列車を見送ろうとしている。その中には、ついさっきのパン屋の人もいた。そして列車が動き出すと、乗客達は車内から、地元の人々はホームから手を振り合い別れを惜しんだ。
 席は無いので、先程の窓際に立ち立ち食いでパンを食べた。


(※当サイト内関連ページ:「美作滝尾駅訪問記(2009年4月)」)
みまさかスローライフの乗客で賑わう美作滝尾駅

みまさかスローライフ列車の乗降客で大賑わいの美作滝尾駅。
みまさかスローライフ歓迎イベント、コーヒー等の無料サービス
美作滝尾駅前では、みまさかスローライフ列車歓迎イベントの一つとしてコーヒーや甘酒のサービスも。

美作河井駅

 美作加茂駅で35分停車した後、美作河井駅に停車した。背後には山が迫り、紅葉には程遠い緑深さだが、一本だけ黄色く色づいた木が目を引いた。この美作河井駅もレトロ駅舎スタンプラリーの対象駅で、待合室の一角にスタンプ台があった。ちょっと遅れたためスタンプ台の前は10人程度の行列ができている。因美線のスタンプラリー対象駅の3駅を含む智頭‐津山間は区間は列車本数が少なく、特に日中の美作河井‐美作加茂間はまるで分断されているかのように5時間、3時間と列車間隔が空く時間帯さえある、スタンプラリー難関区間である。元は難関区間を効率よく攻めたいから、みまさかスローライフ列車を選んだ訳だが、鉄道ファンの考える事は同じなのだなと思った。
 スタンプを押し駅前に出て、美作河井駅の駅舎を眺めた。窓枠がサッシに替えられるなど修復箇所が目に付くが、それでもなかなかいい雰囲気を持った木造駅舎だ。
 駅前の道の両側には色々な店が出店している。その中に、地元の人々が餅つきをしていた。つきたての餅が店先に並び食べたいなあと思ったけど、5個1パックでは食べきれないし荷物になるのでちょっと遠慮…。その代わり地元、美作河井駅北のある集落、阿波(あば)産の米粉を使ったロールケーキを頂いた。お店の中にはみまさかスローライフ列車のグッズを扱ったお店もあった。色々目移りしたが、選んだのは美作河井駅駅舎の携帯電話ストラップだ。駅舎のストラップは珍しいし、駅鉄な私には最適なストラップだ。(私のスマートフォン・GALAXY noteにはストラップが取り付けられないのが泣き所だが…)
 最後に美作滝尾駅同様、開放されていた駅務室跡に入ってみた。内部にはテーブルや椅子が並べられ、乗客が外の店で買ったものを持ち込み食べているなど、食堂のように利用されていた。以前、来た時は、無人駅となっていたせいで、窓口が板のようなもので塞がれていて内部の様子を伺い知る事はできなかった。こうして全体を見渡すと、改装されてはいるもののの、駅らしさは残している。特に窓口跡裏側は昔の木のままの造りを残していた。
美作河井駅の木造駅舎。

美作河井駅。改修箇所は多いがなかなかの雰囲気。
美作河井駅、駅務室内部。

駅務室内部。
みまさかスローライフ列車の乗客で賑わう美作河井駅

乗降客で賑わう美作河井駅。
記念に美作河井駅駅舎ストラップを購入
美作河井駅駅舎ストラップを記念に購入。しかも日付入り!
 列車は美作河井駅を出ると、次の那岐駅に停車した。この駅でも歓迎イベントはあるが、長時間停車が取られているのは復路の方だ。そして駅舎スタンプラリー対象駅の一つだ。最初、乗車券は名古屋市内から那岐駅までのものを買ったが、このまま終点の智頭駅まで乗り通す事に。那岐駅には折り返しの途上で、下車してゆっくりと見る事によう。
 そして、列車は14時32分、終点の智頭に到着した。津山‐智頭間は、通常の列車なら1時間ちょっとだが、2時間半も掛けてきたのだ。沿線の風景と食べもの、地元の人々の歓迎、そして素晴らしい駅舎・・・、いろいろと堪能できて、面白い列車だと思った。賑やか過ぎるのもどうもと思う人は、往復の内どちらか片道は普通列車にすると、本来の因美線らしいローカル線の風情も味わえ一層楽しめるのではないだろうか…?
 みまさかスローライフ列車は4分後に津山に折り返していった。その様子を見送り、駅前をぶらぶらして智頭駅に戻ってきた。この後、15時13分の智頭発那岐行きの普通列車があった。その約1時間後に津山行きの普通列車がある。1時間は駅を見るのに十分な時間で、列車本数が少ない因美線にあって何と絶妙なタイミングで幸運なんだと嬉しくなる。
 15時13分発の2693Dは土師駅、そして終点の那岐駅と僅か2区間のみという列車だ。車両は先程とは打って変わって因美線の主力車120系気動車だ。乗客もとても少なく、旅行者は私のみ、そして地元の若者の僅か2人だけ。折り返し智頭行きとなる2692Dも含め考えると、平日、学生の下校のための列車として設定されているのだろう。

那岐駅。ローカル駅らしい風景に戻った駅にひとり…

那岐駅ホーム

石積みのホームに背後の木々。山間部の集落の駅らしい佇まいの那岐駅ホーム。
 列車は乗客2人だけのまま終点の那岐駅に到着した。この駅はレトロ駅舎スタンプラリー対象駅の中では、唯一鳥取県内にある。違和感を覚えなくも無いが、1駅北の土師駅までがJR西日本岡山支社管内となっている。
 下車すると、もうイベント列車の雑踏は無く、小さな気動車がポツリと停まった長いホームにいるのは私だけだ。ついさっきまでは復路のみまさかスローライフ列車の乗客で賑わっていた事だろう。駅は本来のローカル線の風景に戻っていた。ホームは傾斜地を切り開き設けた道床の途上にある。2番線は緩くカーブが掛かった石積みのホームで古いローカル駅らしさを感じさせ、背後には木々が迫る。いい佇まいだ。
 駅舎には急な階段を下らなければいけなく、お年寄りには大変そうだ。だが、がっちりとした木造の屋根と壁で覆われているのが幸いだ。那岐駅は沿線でも雪が多い地帯との事で、こんな屋根が設けられているのだろう。こんな雨が降り続く日にも嬉しい。使い込まれた古びた雰囲気は古い木造駅舎によく似合い、後で建物財産標を見たら「昭和15年 3月30日」と記されていた。階段に沿ってこの周囲の昔の様子を伝えるモノクロ写真が展示されていた。那岐駅開業時の様子、地元の農作業風景など、一枚一枚、この地区の長年の営みを感じながら階段を下った。
 駅舎の中からは賑やかな話し声が聞こえた。歓迎イベントを終えた地元の人々が、一仕事終えほっと寛いでいるのだろう。待合室に入って左側にスタンプ台があったので、早速一押し。そして、乾かそうと造り付けの長椅子に台帳を広げておいた。窓口跡はこのあたりの古い木造駅舎としては珍しく、完全に改装されていて昔の痕跡は跡形も無い。誰かが持ち寄った本で、ミニ文庫が設置されていて、待合室側にも内部への出入口が作られていた。那岐駅は月2回、旧駅務室が診療所として利用されているという。待合室が診療時待合所としても利用されているのかもしれない。
 狭い駅前には、歓迎イベントで使ったテントの屋根が地面に下ろされた状態のままだった。那岐駅は初訪問だったので、イベントの賑やかさとは違う場面を見たく、みまさかスローライフ列車での訪問はパスしたが、どんな事をやってだのだろう、どんな美味しいものがあったのだろうと思うと、やっぱり見てみたかったなとも思えてきた。
 那岐駅の木造駅舎は長年使い込まれた渋い色をした木の板が印象的な素朴なありふれた感じの駅舎だった。赤い屋根瓦がピカピカと新品っぽい輝きがあったので、近年、葺き替えられたのだろう。漆喰が露出した部分は白くきれいだ。古い駅舎は改装されてはいるが大切に使われていて、こんないい事は無いと思う。
 駅舎に寄り添うように、枯れた池や灯篭のある小さな和風庭園が添えられていた。昔は水がなみなみと注がれ駅員さんが手入れした潤いの空間だったのだろう。廃れた感じはする。しかし、配された岩や、緑の木々、そして成長して伸びる松は庭園らしさをなおも留め、昔の木造駅舎の風景を今に伝えるとても懐かしい風景に映った。
 
那岐駅、駅舎への木製屋根付きの階段。

駅舎とホームを結ぶ階段は木造の屋根と壁で覆われる。
那岐駅の木造駅舎

下の駅舎とホームを繋ぐ木造の屋根付き階段。
那岐駅、浴場跡。

駅舎に隣接して浴場だった小さな建物もあった。
那岐駅。駅舎と池庭跡。
枯れた池のある池庭が古い木造駅舎に味わいを更に添える。
 これで因美線の3駅、津山線の建部駅と、今日の日程はクリアしたが、那岐駅訪問後、もう1駅、知和駅にも訪れようと思っていた。知和駅はかつてはスタンプラリー対象駅だったが、今回は違っていた。しかし素朴で趣深い木造駅舎が残っている事で有名で、因美線に来て木造駅舎を巡っているからには外せない、是非とも寄りたい駅だ。しかし、那岐駅で約1時間、あれこれ撮影し雨で濡れてしまった。しかも気温も下がりつつあり風邪をひきそうになってしまったため、翌日の事を考え今回はやめておいた。その代わり、津山行きの車内から薄暗い中にひっそりと佇む知和駅の様子を目を凝らしじっと見つめた。いつの日か、また必ず来ようと思いつつ…。
 

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