太市駅 (JR西日本・姫新線)~改修箇所が惜しいけど木造駅舎らしい味わい残す…~



独特な改修が施された姫新線姫路近郊の駅舎

 改修が完了した姫路城や姫路モノレール・大将軍駅跡を見た後、姫路駅から姫新線の列車に乗り込んだ。この後は、美作江見駅や美作土居駅と言った木造駅舎を巡る事が主な目的だったが、

 そのため播磨新宮駅までに一駅、余分に下車できる。この区間で木造駅舎が残る駅となると、余部駅と東觜崎(ひがしはしさき)駅、そして太市(おおいち)駅だ。この中で太市駅だけまだ訪れた事が無かったので、まぁ太市駅にでもしておこうかと思った。

 このように消去法で決め、あまり積極的に太市駅を選んだ訳ではなかった。と言うのも、太市駅の駅舎は、一応、古い木造ではあるものの、出入口付近の部分だけ青色の新建材で改修されていたのをウェブ上で見ていたからだ。その第一印象は、「味わいの欠片も無い」だった。

されど深い味わい残した木造駅舎

 姫路駅から約15分、姫新線の列車に乗り3駅目の太市駅で下車した。姫路駅からしばらくはビルや民家が立ち並ぶ風景が続いた。しかし10kmも走ると、下車した時、目に飛び込んできた風景は、小高い山に囲まれた田畑が広がる長閑な風景だった。

JR西日本姫新線・太市駅、ホーム間の構内通路

 1番線から駅舎が面した2番線に行くには、ホーム端…、というか駅のいちばん隅にある構内通路まで大回りしなければいけない。構内通路は近年、改修されたのか、まだ真新しい感じがし、ローカル線らしからぬ雰囲気だった。

JR姫新線・太市駅、駅構内の黄色いチューリップ

 そして2番線に至った。駅舎はプラットホームより低い位置にあり、階段かスロープで降りるようになっている。スロープを歩くと、脇の土面には色々な花が植えられていた。中でも黄色いチューリップが一際鮮やかで目を引いた。この駅には桜こそ無いが、駅に春らしさを添えていた。

JR姫新線・太市駅、駅舎ホーム側

 まずホーム側から駅舎を見てみた。かつての改札口辺りは、新建材で改修されているものの、支える柱は木のままだ。よく見ると、白いペンキ越しに木目が浮いている。

 そして更に奥に進むと、木の質感ある昔の造りがそのまま残されていた。これはまさに木造駅舎そのものだ。
「おぉ、意外といいじゃないか…」
と思わず唸らされた。この駅には、正直、期待していなかっただけに驚きは尚更だった。使い込まれ茶色く渋い木の壁や軒を支える柱は、新建材とは比べ物にならないほど印象的で、この駅の年月を感じさせた。駅事務室の窓はサッシに替えられ、一部は板で塞がれている。しかし塞がれた方の窓を良く見ると、木の窓枠が垣間見える。この窓枠は木枠のままのようだ。塞がれているのが惜しい。

 先を見ると、駅舎の向こうには5平方メートル程度の広さの空間となっていた。今は雑草が生え空地のようになっている。しかし、駅敷地内にぽっかりと穴が開いようなこの空間には、かつて危険品庫や宿舎と言った業務用の建物があったのだろうと感じさせる。有人駅なら遠慮してしまう所だが、無人駅なのをいい事に、その部分に進んでみた。

JR姫新線・太市駅、古色蒼然とした木造駅舎が残る

 そしてその空間に達し、駅舎の側面を見てみた。すると年月を経てくすんだ木の質感があまりに味わい深く、しかも昔のままの造りを留めていた事にも大きく驚かされた。

 側面には扉が二つあり、真ん中に駅舎に出入するための扉がある。古び無数の木目が浮き出ているのはもちろん、錆びついた取っ手は、まるで駅の古さを語りかけてきているかのようだ。そして左側には引戸がある。この一角は倉庫だったのだろう。こちらも扉は古い木のままだ。クリーム色の塗装が剥げ、元の色が露出している。

 この角度から駅舎を見るなら、嘉例川駅、上神梅駅と言った名だたる木造駅舎に全く引けを取らない。それ程までに強烈な印象を受けた。

JR姫新線・太市駅、一部が新建材で改修された木造駅舎

 待合室を通り抜け駅舎を正面から見てみた。駅開業の1931年(昭和6年)の駅開業以来という駅舎は、写真で見たとおり右側の出入口部分の約3分の1だけ、外壁が新建材で改修されている。鮮やかな空色一色なのが派手で落ち着かない印象だ。そこだけ見ていると、新築同然だ。

 残りの左側約3分の2は、窓が板で塞がれている以外は、これと言った補修もされていないようで、壁は古い木の板のままで、素朴な木造駅舎の姿を保っている。

 鮮やかな青色と、渋い茶色という正反対の色が、珍妙なコントラストを奏でている。なんでこんな改修の仕方をしたのか疑問に思える。きっと、半世紀以上年月を経た木造の建物は、たたでさえ古びていたのに、無人駅となりますます寂れ、廃虚のようだったのだろう。そこで、建て替え…、せめて改修したいが、費用が限られていたので、出入口周辺だけを奇麗にして、駅を明るいイメージに仕立てたのだろう。同じ姫新線の余部駅、東觜崎駅、西栗栖駅もこんな感じだ。

JR姫新線・太市駅、改修箇所以外は古い木造駅舎らしい味わい深さ

 駅舎の正面を見ると、ああ今風に改修された木造駅舎なんだと淡々と受け止めている。しかし、十数歩歩き、左斜め横から駅舎を見ると、ほんの少し歩いただけなのに、使い込まれた木の質感豊かな造りとなり、まるで何十年も時を遡ったかのような感覚を覚える。こちら側も窓が塞がれているが、板を取ったらどんな風になるのだろうか…

JR姫新線・太市駅、植込みと駅設置記念碑

 駅の右側、トイレの前には植木などで庭園風に整えられた一角があった。

 その奥になにやら重厚そうな石碑が建立されていた。見ると、「太市駅設置記念碑」と標され、その横に碑文をしたためた鉄道大臣の名前も添えられていた。

JR姫新線・太市駅の木造駅舎、待合室

 外観は意外にも昔のままの造りを留め趣き深さを感じるが、内部はかなり改修され、外観のように何十年も前の昔の雰囲気は留めていない。壁や天井と言った板張りも、ほとんど張り替えられているようだ。

JR西日本姫新線・太市駅、無人駅となった窓口に飾られた花

 太市駅は1986年(昭和61年)11月1日に無人化されている。それから30年になろうとしている。窓口のシャッターはずっと堅く閉ざされているのだろう。

 出札口のカウンターを見ると木の板のままだった。白く厚くペンキが塗られているが、古そうな質感が感じ取れた。ここだけが古い部材をそのまま使っているようだ。

 カウンターの上には桜やチューリップなどの花が生けらた花瓶が置かれていた。無人駅となっても、誰かがこの駅を気にかけ、こうして季節の花を飾ってくれるのだろう。スロープ沿いの黄色いチューリップもきれいだった。今度、この駅を訪れた時は、どんな花が飾られているのだろうか。

[2015年(平成27年) 4月訪問](兵庫県姫路市)

追記: 駅舎建て替え

 2021年3月21日より新駅舎が供用開始されると発表された。

 前年より駅至近の空きとなっていた建物の解体、駅トイレの取壊しや周辺の整備と言った工事が進められてきた。

 新駅舎は券売機やICOCA対応の改札機が備えられただけのコンクリートの小屋程度の大きさ。旧駅舎跡地には地元企業の社屋が建てられる。駅前は姫路市によりロータリーのある広場が整備される。


レトロ駅舎カテゴリー: JR・旧国鉄の失われしレトロ駅舎