因原駅 (JR西日本・三江線)~桜咲く荒れた廃止ホーム~



廃止ホームから因原駅へ

 三江線の石見川本駅からバスに10分ほど乗り、因原インフォメーションセンターというバス停で降りた。「道の駅インフォメーションセンターかわもと」の最寄バス停で、道の駅でおみやげをいくつか買うと、すぐ近くにあるという因原駅を探し裏手に歩いた。

JR西日本・三江線・因原駅、廃止ホームの桜の木

 すると、満開に咲き誇る2本の桜の木の間に隠れるように、短い階段があるのを見つけた。ここが駅の入口かと思いその階段を上がった。

JR西日本三江線・因原駅、桜満開の廃止ホーム

 階段を上がると、やはり因原駅のプラットホームだった。しかし駅舎と反対側のこの側のホームは、とうに廃止され、レールは剥がされている。かつての駅の裏口だったといった感じだが、廃止された今、裏口すらでない。だが、駅名標と待合室はまるでホームが廃止になったのが昨日であるかのように、そのまま残っていた。

JR三江線・因原駅の廃ホーム、廃墟のような待合室

 しかし木造の待合室の中を覗いてみると荒れ放題で、屋根は崩れかかり、漏れた雨水で木製ベンチは腐り黒ずんでいる。きちんと残っていたら、駅に味わいを添える昔ながらの設備だったのだろうが…。

JR西日本・三江線・因原駅、駅舎ホーム側

 反対側のホームには木造駅舎が健在だ。無人駅と聞いているが、遠目で見て、状態はまあまあいいように思えた。

運送会社が入居した木造駅舎

JR西日本三江線・因原駅、木造駅舎には運送会社が入居

 因原駅の駅舎正面にまわってきた。1934年(昭和9年)11月8日の駅開業以来の駅舎はいまだに健在だ。屋根瓦はJR西日本山陰地方でよく見る青色の瓦だ。改修の際、JR西日本のコーポレートカラーのこの色にしたのだろう。

 運送会社が入居し、旧駅事務室側に改修の手が多く入っているのが仕方ないとは言え惜しい気はする…。しかし、ここに日頃、人がいるという状態が、結果として大切に使われているという事になっているためか、もちろん古めかしい感じはするののの、廃れている雰囲気は無く、温かみのある木造駅舎の雰囲気を存分に感じられる。人がこの古き駅舎に命を吹き込んでいるのかもしれない。無人駅となってしまったが、こういう形で大切に使い継がれているのが嬉しい。

JR三江線・因原駅、木の天井が印象的な待合室

 木造駅舎の待合室の中に入ると、状態がいいのにホッとした。そして何より、天井にびっしりと張られた木の板が、まるで新築駅舎のようにつやつやしているのに驚かされた。一直線に同じ方向に伸びるように張られた板と、そこに無数に走る木目は壮観ですらある。それにしても、木造駅舎のイメージに合うよう、よくこんなふうに改修したものだと思う。古い駅舎では天井の劣化や汚れは意外と目に付き、そんな駅の待合室にいると、こちらまでなんか陰鬱な気分が入り混じるものだ。

JR三江線・因原駅、待合室内の窓口跡

 出札口や手小荷物と言った窓口跡は改修されている。しかし手小荷物窓口は、比較的昔の雰囲気を留めていて、木製の低いカウンターは昔のままの造りを残していた。

 運送会社が入居した駅事務室からは人の気配が伝わる。駅の横には大きな倉庫があり、駅前には何台ものトラックが駐車されていた。

 待合室隅に置かれた古い重量計が目に入った。昔、因原駅が有人駅だった頃に使われていたものだろうか…?

JR三江線・因原駅、待合室の造り付け木製ベンチ

 待合室の木製の造り付けの長椅子も昔からのものなのだろう。長年に渡り、幾人もの人が座った痕跡を留めた木の質感が、この駅の長い時を物語っているかのように迫る。

JR三江線・因原駅、池のあるミニ庭園

 小雨ぱらつく外に目を遣ると、駅舎の外に何と池庭があった!しかも無人駅にも関わらず、水を並々と湛え、中では金魚がスイスイと泳いでいる。駅事務室跡に入居する運送会社の方が手入れしているのだろうか…?よく見ると、駅舎の雨樋からパイプがこの池まで伸びていた。これなら、水を入れ替えるという面倒な作業が軽減できる。雨のこの日、水が絶え間なく注がれていた。

JR三江線・因原駅の木造駅舎、ホーム側改札口
待合室側の外壁は古い木のままだ。年月を経た木の質感は息を呑むほどに深く刻まれ、この駅の歴史を静かに物語っているかのようだ・

JR西日本・三江線・因原駅、桜満開の廃止ホームと駅名標

 列車を待っている間、この駅を離れる名残に、廃ホームに佇む2本の桜の木を眺め続けた。さっきは出迎えられるように、この2本の桜の木の下をくぐり駅に入ったんだなあ…。荒れたホームに佇む桜は、別世界のように美しく咲いていた。

[2011年(平成23年) 4月訪問](島根県邑智郡川本町)

追記: 三江線廃止、その後の因原駅

 2018年(平成30年)4月1日、三江線は廃止となった。因原駅の駅舎は引き続き運送会社の事務所として使われているという。廃線後は待合室もその運送会社が使うようになったという。


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