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熱塩駅:日中線記念館(国鉄・日中線、洋風木造駅舎)


日中線代替バスも廃止となり自転車で熱塩駅跡へ…

 1984年の廃線後も日中線記念館として駅舎が保存されている日中線の終着駅・熱塩駅を訪ねたいと思った。しかし日中線代替バスさえも2012年に廃止され、今では喜多方市が運営する予約制乗り合いタクシー、デマンドタクシーが代替となっている。

 何とかなったと思ったら、このデマンドタクシーは何と土曜休日は運休!私の訪問日が土曜日なので、これには頭を抱えた。もちろん喜多方駅からタクシーという手段があるのだが、片道で11km位なので往復で4~5000円程度は掛かりそう…。いくら駅好きとは言え、往復1万円は1駅で結構な出費だなあと頭を抱えた。しかしこれ以外に選択肢は無いと諦めていた。

 当日、喜多方駅で、一応地図をと思い駅内の観光案内所に寄ると、向かいの通りに「貸自転車」の看板があるのが目に入った。喜多方は土蔵巡りや喜多方ラーメンで観光客も多く、レンタサイクルを営業している所もあるのだ。コスト面から見るとまさに渡りに船で、案内所の係員さんに道順を聞いてお礼を言うと、直に自転車を借りに行った。レンタル料は1日500円。タクシー想定価格の約10分の1で済んだ。

 喜多方駅から熱塩駅跡・日中線記念館までの道は単純で、数箇所の間違え易そうな角やカーブさえ気をつければ、ほぼ道なりだ。市内を快調に走った。しかし、時々、止まって地図を確認すると、意外と目的地には近づいていない。まるで逃げ水を追いかけているような気分だ。それもその筈、15年前、北海道を自転車で旅した時、10kmと言えば概ね1時間で走っていた距離だった。つまりは、熱塩駅もその位は掛かるという事…。しかも当時に比べ運動不足で体力は格段に落ちていて、気が付くと道は緩やかな上りがじわじわと続いていたのだった。次に乗る列車が2時間半後と余裕あるつもりでいたが、次の列車に間に合うか…。それ以前にいつになった着くんだろうと焦る気持ちを抱えながらペダルを漕ぎ続けた。

熱塩駅周辺の集落
(もう少し行くと熱塩駅だろうか…。)

 走り始めて1時間過ぎた。とうに街外れという風景ではなく、人里少ない田舎という雰囲気だ。作業場しかないような鬱蒼とした林のような道を抜けると、集落が見えてきた。周囲には、まるで突き当たりのように山々が立ち塞がっている。さすがにあの当たりかと確認すると、やはりそうだ。ラストスパートに力がこもる。

現役時のままに残る洋風木造駅舎と保存車両

 そして左手に、赤い屋根の洋館が見えたやっと熱塩駅・日中線記念館に到着した。

熱塩駅周辺の木立
(木々の中に駅舎が見えた。)

 日中線廃線から30年近く経ち、駅舎より高く成長した木々の間から覗く様は、洋風の山荘のような駅舎にとてもよく似合う風景だ。しかし、駅に向けてゆったりと上り坂が続く様は、どことなく駅らしい趣を未だに残しているかのようにも思えた。

熱塩駅駅舎:現・日中線記念館
(日中線、熱塩駅駅舎。廃線後は日中線記念館として保存されている。)

 熱塩駅の駅舎は腰周りの石の装飾と、やたらと急角度で高い赤い三角屋根が強い印象を与える洋風の木造駅舎だ。中心となる中央の棟の両側に、小さな棟を従え、三棟連なったような作りも個性的だ。写真右側のものはトイレだ。

 1938年(昭和13年)に建てられたこの駅舎は、当時としては珍しくメートル法で設計されたという。ちなみに、日本の伝統的な単位「尺貫法」があり、長さを現す単位が「尺」だ。メートル法は1891年(明治24年)に尺貫法と併用される形で導入されたが、庶民の間にはなかなか浸透しなかったとの事なので、いかに珍しかったかが分かる。

 2009年、この駅舎は経済産業省の「近代化産業遺産」に認定された。

熱塩駅駅舎、車寄せ。
(駅舎出入口。)

 トイレと中央の棟の間にある洋館駅舎の入口には、扇を広げたような半円形の屋根が掲げられている。ユニークな造りで、駅舎の印象がより強くなる。

 そこより少し奥まった所にある改札口上部に、「熱塩駅」と書かれた駅名看板が掲げられている。奥まった所で控えめな場所だが、その書体はどこか力強い。

熱塩駅駅舎、改札口と窓口跡
(窓口と改札口付近。)

 手小荷物窓口跡と出札口跡は木製で昔のままの造りを留め、改札口も木製とレトロな造りが保たれている。

 まるで現役のまま、時が止まってしまった…、そう錯覚しそうな雰囲気を未だにまとっている。しかし改札口を一歩抜けると、眼前にはレール1本無い緑の構内。知ってはいたが…。現在と過去が交錯する。

熱塩駅駅舎ホーム側、改札、軒の柱。
(駅舎ホーム側。木製の改札口も残る。)
熱塩駅駅舎、木造の上屋と柱。
(柱にはこの駅の年月が刻まれる…。)

 しかし、駅舎の昔のままの造りが保たれた様はやはり素晴らしい。軒…そして柱の木材が使い込まれ木目が浮く様に、この駅の年月を感じさせる。窓枠にサッシが使われた所がひとつも無いのもレトロな趣だ。廃線後…、いや現役の古く歴史の香り漂う駅舎もあっさり取り壊されてる場合も多いが、よくこれだけの雰囲気を保ったまま保存してくれているものだ。

熱塩駅待合室。
(待合室はきれいに整備された。)

 かつての待合室内部はきれいに整備され訪問客がくつろげる空間になっている。壁には日中線の写真や新聞記事のコピーがいくつも掲示されている。

 室内には駅舎を管理する「熱塩駅よみがえらせ隊」の人が詰め、淹れたてのレギュラーコーヒーも販売されている。

熱塩駅・日中線記念館の館内。
(記念館館内には日中線の用品などが展示されている。)

 かつての駅務室内部は資料館として使われ、写真や実際に使われていた鉄道用品など、日中線にゆかりのあるものが多数展示されていた。

 こちらには会津加納駅の駅名標などが展示されていた。下の造り付けの棚が私の興味を引いた。現役時からのものだろうか…。

さよなら日中線、記念ヘッドマーク。
(かつての駅事務室、手小荷物窓口付近。)

 手小荷物窓口跡の裏側には日中線のさよなら列車に掲げられたヘッドマークが展示されていた。

 隣の出札口側では、来駅記念の硬券切符が100円で販売されていた。面白いのが、古い日付印字機(ダッチングマシーン)で、駅員さんみたいに自分で日付を刻印できる事だ。こんな機会滅多に無いし、何より駅舎の維持の少しでも役に立てばと思い、料金箱に100円を入れ、上の切符収納棚から硬券を取り出した。「えい!」と気合を入れ過ぎ硬券を通してしまったためか…、刻印された日付は濃過ぎ、一見しただけでは判別し辛いほど滲んでいた。

熱塩駅ホームで休憩。
(カメラを置いてコーヒーで一休み…。)

 待合室でコーヒーを買った。駅で缶コーヒーではなく、レギュラーコーヒーを飲めるのはなんという幸せかとコーヒー好きの私は思う。やはりこれはノスタルジックなムード溢れるプラットホームで飲みたい。ベンチに腰掛け、カメラを降ろすと、温かいコーヒーをすすり一息ついた。列車は1本遅らせて喜多方駅に戻ったら喜多方ラーメンでも食べようと、もうすっかりのんびりとした気分になっていた。

熱塩駅:日中線記念館。キ287、オハフ61_2752。
(旧熱塩駅構内で静態保存されるラッセル車キ287)

 旧構内の外れにはラッセル車のキ287、旧型客車・オハフ61_2752が静態保存されている。屋根が設置され、車体も手入れが行き届き保存状態は良好だ。駅舎共々、大切にされている。

熱塩駅:日中線記念館、オハフ61車内
(同じく静態保存されているオハフ61の車内。)

 オハフ61の方は車内も見学できた。木の板張りの床や壁面など昔のままの造りで、こちらのレトロさ溢れるムードも感嘆ものだ。網棚は本当に網でできている。現代では座席頭上の棚の事を、実際に網でなくても便宜的に網棚と言う事も多い。しかし、これぞまさに本物の網棚と実感。

熱塩駅、駅舎ホーム側。
(駅舎ホーム側。)

 構内跡に立ち駅舎を見てみた。木製改札口や軒の柱がの年月を経た質感が味わい深いが、やはり急斜面の赤い屋根があってこそ、熱塩駅らしい味わいがあるというもの。屋根の形状は駅舎正面側は真っ直ぐだが、ホーム側は先端が外側に軽く反り返っているのが面白い。

熱塩駅構内跡の公園。
(かつての駅構内。)

 終着駅で、かつては機回しや車両の留置やらで賑わっていた時期もあるのだろう。構内はなかなか広い。その他、転車台の跡もあるらしい(気付かず撮り逃したのが無念…)。片隅には日本の駅らしく桜の木が植えられている。今度は桜の時期に来てみようか…。

熱塩駅跡、日中線開通記念、桜の植樹。
(日中線開通記念に植樹された桜。開通からこの駅を見届ける。)

 トイレの隣には桜の老木が佇んでいる。添えられた看板を見ると、昭和13年8月18日、日中線の開通を記念して地元の人が植樹したものだという。この桜は開通に喜ぶ村の人々の様子から、賑わう駅、モータリゼーションで徐々に廃れ寂しくなっていく駅、そして日中線の終焉までを見届けた生き証人だ。桜にも寿命があり、この先何百年とはいかないだろう。だけど命尽きるまで、春には花を咲かせて欲しい、そしてこの駅舎を見守ってほしいものだ…。


[2013年10月訪問]

熱塩駅・日中線記念館、基本情報まとめ+

鉄道会社・路線:
国鉄・日中線
駅所在地:
福島県喜多方市(※廃止時は熱塩加納村)
駅開業年:
1938年(昭和13年)8月18日。
廃止年:
1984年(昭和59年)4月14日。
駅舎竣工年:
1938年(昭和13年)※開業以来の駅舎
駅営業形態:
末期は無人駅。
その他:
・記念館の開館時間など、詳しくは「ふくしまの近代産業遺産、旧国鉄日中線・熱塩駅」へ。
喜多方市ウェブサイト予約型乗合い交通(デマンド交通・みんべい号)

東北地方の保存・残存駅舎

芦野公園駅(津軽鉄道)
※喫茶「駅舎」として利用されている。
矢島駅(由利高原鉄道)
※新駅舎竣工後、長らく倉庫として利用されてきたが、2011年に解体された。